僕はちょくちょく人が驚かないようことで驚く。
常識が無かったり感覚がずれているのかもしれない。
つい先日友人と一緒にいた時、僕はおっと思うような出来事に遭遇し、人知れず感動していた。
それは、友人がペーパーナプキンにメモを取り始めたことだった。
僕はその日、xperia Z4 tabletを購入しようと思っていて、
その値切り交渉を友人に手伝ってもらうことになっていた。
友人は交渉術に長けていると評判だった。
この前もiPhone6sを友人が購入する際、
端末代が6万円するところを0円にし、かつポイントを数千円分つけてもらい、
加えてカバーなどの販促品をいくつかもらい、とどめに対応した店員とその上の上司にまで感謝されると言うのだから意味がわからない。
とにかく友人は喋りがうまく、交渉ごとが得意なのだ。
その日も僕と友人はヨドバシカメラの店員と会話しつつ、値切り交渉をしていた。
一段落すると友人は「一旦考えてみます」と店員に告げ、今度は僕に「とりあえず作戦会議をしよう」と言った。
その時点で僕は驚きを隠せなかった。
家電製品やデバイス類を買うとき価格交渉するのは知っていたし自分でもやっていたが、
作戦会議までするとは思わなかった。
作戦会議。
なんとも仰々しい響きだ。
「これから価格交渉のための作戦会議を始める」
うん、もはや映画やゲームの中の世界だ。
きっと他国(ヤマダ電気やビックカメラ)の状況や新勢力(Amazonや価格.com)の攻勢を踏まえ、
我が軍の資源と戦力(主に手持ち資金)を考慮し、戦略を練るのだろう。
もしかしたら戦況への僕の貢献(店員とのトーク)に対して叱責されるのかもしれない。
「あの時の合いの手は良かった」
「ありがとうございます」
「ただ、事前調査が足りなかった。他店の価格が税抜きか税込み価格なのか確認することは基本だ。
それを見落とすようでは軍人は務まらん」
「はい……申し訳ございません」
「以後気を付けたまえ。価格交渉は”戦争”なのだ」
「サー、イエッサー」
なんて感じになるかもしれない。
そんなことを考えていた僕を尻目に友人はすぐ近くにマックを見つけ、
100円でコーヒーを買うと、席についた。
そしてパントリーから紙ナプキンを取り、「何か書くもの持ってない?」と僕に聞いてきた。
僕は一瞬何がなんだかわからなかった。え、紙ナプキン? 書くもの?
それをメモ代わりにするの?
0.5秒後に事情を飲めた僕の頭には、世界のエグゼクティブが紙ナプキンにメモを取りながら
経営戦略や新商品の構想について熱弁を振るう姿が描かれていた。
これが「紙ナプキン・トーク」というやつか!
僕の興奮は頂点に達していた。
作戦会議だけでもすごいのに紙ナプキンをメモにしちゃうの?
やべー、これ映画とかドラマで見たことあるやつだ。
ウルフオブウォールストリートのワンシーンにも登場するやつだ。
僕はもはや芸能人を町中で見て興奮するファンと一緒だった。
友人はxperia Z4 本体とその付属品の価格と値引き後の価格、それにポイント率を計算し、
紙ナプキンに書いていく。
値引きの理想値と目標値を導きだし、僕にそれを色々提案し、僕も自分の希望を答える。
しかし、もはや僕は心ここにあらずだ。
スマホで価格を電卓に打つが、単純な計算も手元が狂ってできないくらいだ。
僕は僕自身でなくなり、今や野望を抱く若きクリエイターになっている。
休日の朝からマックで100円のコーヒーを片手にそれっぽいことをしている。
紙ナプキンを使って作戦会議とかしちゃってる。
それだけでxperiaの価格どころか購入すらどうでもいい感じもしてくる。
僕のテンションが最高潮に達している中、友人は落としどころを決め、
「そろそろ出よう」
と言ってきた。
ここまで時間にすると5分足らずの出来事で、コーヒーは半分どころか3分の2以上余っている。
僕がコーヒーのことを言うと、友人は
「マックのコーヒーまずいし、時間もったいないから早くいこ!」
と、コーヒーを何の躊躇もなく捨てた。
僕は今日3度目の驚きの光景に、思わず奇声をあげ、口から変な汁が出そうになるところをすんでのところで抑えた。
そして、僕は「味の好みが片寄っている気むずかしい若きクリエイター」になり、
舞台はニューヨークで、とりあえず入ったカフェでまずいコーヒーが運ばれてきたので舌打ちを打つ男の姿を想像する。
心は太陽系よりも遠くに旅立ってしまう。
xperiaは友人と助力もあり、少し安く買えました。
この記事へのコメントはありません。